この方法はInoue et al (1990) の方法を改変したもので,作成日数が短く(遅くとも2日目の夕方には完成する)培養を止めるタイミングも予測しやすいので,私のような慌て者に適した方法である.
手順 1.1日目の午前.以下の器具をオートクレーブ滅菌,乾燥しておく.乾燥を急ぐときにはクリーンベンチの中でふたを開けて風を当てる.
2.1日目の夕方.SOBをガラス試験管に約2ml,三角コルベンに50ml分注.厳密に無菌的に.適当な大腸菌株のグリセロールストックからイエローチップで1〜2μLとり,ガラス試験管中のSOBに植菌.三角コルベンに入れたSOBは冷蔵しておく.
3.37℃で一晩振とう培養.翌朝にはたっぷり増えている.
4.2日目の午前.一晩培養した菌液約0.5〜2mlを三角コルベン中のSOB50mlに加える.この時点で培地はわずかに濁る.室温で振とう培養.菌液の残りはグリセロールストックなどとしてとっておくことができる.
5.2日目の午後.OD600が
0.4程度になったら培養を止める.スタート時点での濃さにもよるが,2〜8時間程度が目安.「もう少し」になったら油断せずに10〜20分おきにチェックする.ただし,いきすぎても焦る必要はない.いきすぎたら2本目の予備の三角コルベンに植え継いで同じことを繰り返せばよい.初めてコンピテントセルを作るときにはきちんとODを計ったほうがよい.この方法で作るコンピテントセルは培養液のODのストライクゾーンが広いので,最適OD値の濁り具合を覚えておき,2回目からは感覚的でよい.濃いめのコンソメスープぐらい.通常の37℃o/nカルチャーよりもかなり薄い.
6.培養液を5分〜1時間程度氷冷したあと,滅菌ファルコンチューブ(50ml)移しかえる.この段階から,できあがったコンピテントセルの分注,凍結までのあいだ,菌体を厳密に氷冷状態に維持する(暖めると効率の悪いものができる).また,操作はクリーンベンチ内で行う.1000〜3000×G,4℃で10〜5分程度遠心.ODをちゃんと計らなくても,沈殿の大きさでだいたいの濃度を知ることもできる.アングルロータの場合は,沈殿はファルコンチューブの角に径1cmぐらいの薄い広がりになる.株によっては(DH5αF'IQなど)チューブ側面に薄いすじのように沈殿することもある.
7.遠心の待ち時間に,エッペンチューブ立てにオートクレーブした2mlマイクロチューブを立てて,冷凍庫で冷やしておく.あまり早く冷やし始めると冷えすぎるので注意.
8.沈殿を上にしてデカントで上澄みを捨てる.チューブのリムにしずくができるが,ブルーチップを挿したピペットマンなどで吸い取るとよい.氷冷したTBを15ml静かに加える.泡を立てないように静かに沈殿をTBに分散させる.ブルーチップを挿したピペットマンでTBを沈殿に吹き付けるようにするとよい.
9.遠心,上澄みの廃液を繰り返し,5mlの氷冷したTBを加え,沈殿を分散させる.
10.DMSOを350μL加え,直ちに緩やかに振って混ぜる.DMSOは水分と出会うと発熱するので,DMSOを加えたら菌液をしっかり氷冷する.コンピテントセルはこの時点で完成.
11.冷凍庫で冷やしておいたマイクロチューブを取り出し,できあがったコンピテントセルを500μLづつ,暖まらないうちに手早く静かに分注する.
12.液体窒素または−80℃で凍結保存.液体窒素保存の場合,1年ぐらいはほとんど効率低下しない.
トランスフォーメーションの手順 1.培養時間を考慮して,午後3時頃から始める.凍結保存したコンピテントセルを氷上に置いてゆっくり解凍.手のひらなどで暖めてもよいが,振ったり暖めすぎたりしないように.解凍したコンピテントセルは氷上に置く.
2.解凍中に,2mlのエッペンドルフセーフロックチューブの底にプラスミドやライゲーションミックスをイエローチップで水玉のようにくっつけておく.操作は無菌的に.次の操作までチューブを氷上で十分に冷やしておく.
3.プラスミドまたはライゲーションミックスの入ったエッペンチューブに,解凍したコンピテントセルを100μL静かに注ぐ.激しく撹拌しない.
4.氷上に25分静置.
5.湯沸かしのお湯をボウルに入れるか鍋に水を入れて軽く沸かし,温度計で測りながら43〜44℃にする.この操作にだいたい5分ぐらいかかる(25+5=30分).
6.チューブをフロートに挿してお湯に浮かべ,45〜50秒間ヒートショックする.
7.チューブを氷冷する.マニュアルでは1〜2分とあるが,すぐに次の操作をしてもそれぐらいの時間になる.むしろ,もたもたして5分以上氷冷すると効率が落ちるらしい.
8.SOCを1ml加えて37℃で40分から60分シェイク.あらかじめSOCを37℃にしておくとマニュアルにはあるが,冷蔵庫から出してすぐ使用しても効率は変わらないようである.
9.シェイクしている間に,LB,Amp(ベクターとホストの組合せによる)アガープレート1〜2枚にXgalとIPTGを適量(約20&10μL+ミリQ20〜50μL,量をケチると水を加えないとうまくひろがらない)スプレッダーで塗りひろげる.クリーンベンチ内でプレートのふたをずらして乾かしておく.
10.SOCを入れてシェイクしたトランスフォーマントを100μLスプレッダーで塗り広げる.ライゲーションミックスのデキがよくないと予想されるときには,残りを15000×Gでフラッシュして落とし,9割がた上澄みを捨て,残りに菌を分散させて2枚目のプレートに塗り広げる.そうでない場合でも,念のためにトランスフォーマントの残りを冷蔵庫に入れておくとよい.万が一翌朝コロニーの数が少ないとき,同様に濃縮して塗りなおすことができる.
11.プレートにパラフィルムを巻いて逆さにして37℃でo/nインキュベートする.翌朝,コロニーを確認したら冷蔵庫で保管する.
トランスフォーメーションには思ったよりも時間がかかるので,私のような慌て者は手順4と8を短縮することがある.ちなみに,最初の氷冷とオーバーグロース(この場合にはSOCをあらかじめ37℃に暖めておく)を両方とも5分に短縮すると1桁ぐらい効率が落ちる.最初の氷冷15分,オーバーグロース5分では半分ぐらいの効率である.ライゲーションミックスのデキがよく必要なクローンがわずかなら,問題ない程度の効率低下であろう.この間にXgalをプレートに塗ったりしていれば時間配分をかなり合理化できる.
<注>
大腸菌株
グリセロールストック
オーバーグロース
コンピテントセルの
効率計算
用意する試薬類
SOB培地
Mg液
SOC培地
TB
LB,Ampアガープ
レート
3M
KCl(100ml用)
Amp
カナマイシン,テトラサイクリン
Xgal
IPTG
アウトライン:大腸菌を室温でOD600が0.4になるまで培養,培地をTBに置換
ガラス試験管とディスポポリ栓1〜2本(ディスポの滅菌ファルコンチューブなどでもよい)
50〜100ml用の三角コルベン2本(アルミホイルでカバーを掛ける)(1本は予備)
2mlマイクロチューブ10〜12本(コンピテントセルを液体窒素に保存する場合には液体窒素使用可のものに限る)
イエローチップ
ブルーチップ
(ストックがなければSOB,SOC,TBも作っておく)
アウトライン:コンピテントセルとプラスミドを混ぜて氷上で30分静置,ヒートショック,1時間オーバーグロース
REFERENCE
Inoue H, Nojima H, Okayama H.1990. High efficiency transformation of Escherichia coli with plasmids. Gene 96:23-28.
野島 博. 1991.大腸菌へのDNA導入(トランスフォーメーション)1. 高効率コンピタントセル調整法, pp46-51, 村松正実・岡山博人(編), 遺伝子工学ハンドブック, 羊土社, 東京.
DH5α,DH5αF'IQ,XL1BlueMRF'など.いずれもグリセロールストックに他の菌がコンタミしないように厳密に管理しておけば,アガープレートにストリークしてシングルコロニーを分離する必要はないので1日節約できる.
DH5αはルーチンのトランスフォーメーションによい.lacIqを欠くのでプレートにIPTGを塗らなくてよい.菌の増殖は速くプラスミドの収量も多い.コロニーはスムーズでアガープレートからはがれやすいので,コロニーハイブリをするときにはメンブレンをよく濡らしておく.濡らし足りないとコロニーが全部メンブレンにくっついてしまう.
DH5αF'IQは高効率で勝負用に使える.カラーセレクションにはIPTGが必要.菌の増殖は遅くプラスミドの収量もよくない.何度も植え継いでいるとFプラスミドが脱落してただのDH5になってしまう.1日目の小スケール培養時にカナマイシンを2μL加えるとFプラスミドの脱落を防ぐことができる.
XL1BlueMRF'はメチル化DNAの制限機構を欠くので,ゲノムDNAのクローニングに適している.カラーセレクションにはIPTGが必要.何度も植え継いでいるとFプラスミドが脱落する.1日目の小スケール培養時にテトラサイクリンを2μL加えるとFプラスミドの脱落を防ぐことができる.コロニーは柔らかくほぐれやすいので,コロニーハイブリをするときにメンブレンを濡らしすぎると,メンブレンをはがすときに水気で菌体が流れて隣のコロニーとコンタミしやすい.
オートクレーブした80%グリセリンをエッペンドルフチューブに500μL分注し,菌の培養液を約300μL加えてゆっくり完全に撹拌.−80℃で凍結保存.凍結前にチビタンでフラッシュすると用時の取り扱いが楽.数回の凍結融解は問題ない.また,10年ぐらい前のものでも大丈夫.ただし,あまりに古くなると増殖が悪くなることがある.その際にはストックをLBプレート(抗生物質不含有またはFプラスミド選択用抗生物質含有)にまいて,増殖力の強いコロニーを拾いなおす.
大きなインキュベータの中にローテータを入れて回す.インキュベータが小さすぎるとローテータの発熱で高温になりすぎることがある.大型のインキュベータもローテータもない貧乏ラボでも,50mlファルコンチューブの中にティッシュと一緒に2mlチューブを入れ,37℃にしたウォーターバスシェイカーで振るとよい.ファルコンチューブとティッシュはあらかじめ37℃で暖めておき,振るときには横倒しにして完全に水没させる.
10pg/μLのプラスミド溶液1μLを100μLのコンピテントセルにトランスフォーメーションし,10倍のSOCでオーバーグロースのあと,その100μLを塗ったプレートから100個のコロニーが現れたら,
105+2+1=108cfu/μgプラスミド・100μLコンピテントセル.(10pg=10-5μg,100=102)
200ml用(以下の培地とMg液を無菌的に100:1に混合する)
培地
バクトトリプトン 4g
イーストエキス 1g
5M NaCl 0.4ml
3M KCl 0.167ml
水 200ml
オートクレーブ
MgSO4・7H2O 2.465g
MgCl2・6H2O 2.033g
ミリQを加えて10mlに
オートクレーブ
抗生物質を含まないので,厳密に無菌的に調製すること.冷蔵で1年程度はOK.
SOB培地と以下のグルコース液を無菌的に100:1に混合する
グルコース 3.603g
ミリQを加えて10mlに
オートクレーブ
抗生物質を含まないので,厳密に無菌的に調製すること.冷蔵で1年程度はOK.
200ml用
PIPES 6g
CaCl2・2H2O 0.44g (無水の
場合は0.297g)
3M KCl 16.63ml
ミリQを加えて約190mlに
KOHでpH6.7に調整したあと
MnCl2・4H2O 2.18g加える
ミリQを加えて200mlに
0.2μmのボトルトップフィルターを使って濾過滅菌
抗生物質を含まない培地とともに用いるので,厳密に無菌的に調製すること.冷蔵で1年以上OK.
20〜30枚用
バクトトリプトン 3g
イーストエキス 1.5g
5M
NaCl 5.134ml
アガー 4.5g
水 300ml
オートクレーブ(やかんでオートクレーブすると便利)
ここからの操作はクリーンベンチ内で行う.
容器を手のひらで1秒ぐらい触れるようになるまでさめたら,Ampを300μL加えて撹拌.
滅菌ディスポプレート(径約9cm)に10〜15ml注ぎ,ぐるりと傾けて全体に行き渡らせる.
次々とプレートに注いでいくが,もたもたしていると固まってしまうので,ガスバーナーでやかんをちょいちょいとあぶりながら注いでいく.
アガーが固まったら,ふたをずらして30〜60分クリーンベンチ内で風を当てて乾かす.
ふたの曇りがなくなったら,ふたをして10枚づつラップで包み,ひっくり返して冷蔵保存.
1〜2カ月ぐらいはOK.それ以上古くなったら用時にXgal,IPTGといっしょにプレートあたりAmpを3〜5μL塗るとよい.
KCl 22.365g
ミリQを加えて100mlに
オートクレーブ後冷蔵保存(1年以上OK)
アンピシリンナトリウム500mgを10mlの50%エタノールに溶解.凍結保存(凍らないが).1年以上OK.エタノールベースなのでぞんざいに扱ってもコンタミの心配はない.
カナマイシンまたはテトラサイクリン500mgを10mlのミリQに溶解.クリーンベンチ内で0.2μmのシリンジフィルターで濾過滅菌し,凍結保存.
凍結融解を繰り返すと力価が落ちる可能性があるので,少量づつ分注して保存.
Xgal100mgをジメチルホルムアミド5mlに溶解.適当に分注して凍結保存(凍らないが).1年以上OK.
IPTG119mgをミリQ5mlに溶解.適当に分注して凍結保存.1年以上OK.