Effect of maternal growth history on egg number and size in wild white-spotted charr (Salvelinus leucomaenis)
Morita, K., Yamamoto, S., Takashima, Y., Matsuishi, T., Kanno, Y. & Nishimura, K. (1999)
Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 56: 1585-1589.
[目的]
約二万二千種存在する魚類のうち98%は卵から生まれる。卵の大きさや孕卵数は、種間、種内の個体群間、個体群内の個体間、さらには個体内の産卵日間といったさまざまなレベルで変異がみられる。サケ科魚類では、個体群内において卵サイズおよび孕卵数は体サイズと正の相関があることが古くから知られている(Gross & Maekawa 1986; Kaeriyama et al. 1995; Morita & Takashima 1998など)。孕卵数が体サイズとともに増加することは単なるサイズ的な制約によるもので説明されるが、卵サイズが体サイズとともに増加する要因についてはさまざまな議論がなされてきた。Sargent et al. (1987)は、体サイズに依存した卵保護の質の違いが大型メスほど大きな最適卵サイズをもたらすことを理論的に証明し、サケ科魚類に見られる卵サイズと体サイズの正の相関の究極的要因を初めて説明することに成功した。また、卵サイズや孕卵数は、体サイズだけでなく過去のさまざまなステージの成長率や年齢によっても変化することが知られており、適応的な解釈もなされている(Jonsson et al. 1996など)。しかし、成長率や年齢は体サイズと強い因果関係があるため、それらを考慮した上で卵サイズや孕卵数と体サイズ、成長率、年齢の関係を理解する必要があるにもかかわらず、そのような視点での研究は行われてこなかった。本研究では、サケ科魚類であるイワナSalvelinus leucomaenisを用いて同一個体群中における卵サイズ・孕卵数変異をもたらす要因について親の成長履歴と体サイズの因果関係を考慮し検討した。
[方法]
原木川は、北海道南部を流れ太平洋に注ぐ流程約10Kmの河川で、陸封型と回遊型のイワナが生息している。調査は1996年の10月に原木川の河口から約5Km上流にある回遊型が遡上不可能な砂防ダムの上流域で行った。得られた22個体の産卵親魚は、体長、孕卵数およびすべての卵径を計測したのち、耳石による年齢査定をおこなった。各輪紋半径を画像解析により計測し、各輪紋形成時における体長をBartlett et al. (1984)の方法により推定し、各年齢時の比成長率を算出した。体長は、年齢と各年齢時の比成長率を用いて次のように分解することができる。
FLT = FL0exp[G1 + G2 + G3(T-2)]
FLTは産卵時の体長、FL0は初期体長、G1は0齢時の比成長率、G2は1齢時の比成長率、G3は2齢以降の比成長率、Tは産卵親魚の年齢(T>3)である。このように、体長(FLT)は5つのコンポーネント(FL0,G1,G2,G3,T)により構成されていると考えることができる。
[結果]
卵径は同一個体群中の個体間で有意に異なっており、個体間の分散は62%、個体内の分散は38%であった(MODELUANOVA, F21,4319=316.8, p<0.001)。卵径、孕卵数ともに体長と正の相関関係が認められた(卵径: r2=0.60, p<0.001, 孕卵数: r2=0.60, p<0.001)。体長を構成している5つのコンポーネント(BL0,G1,G2,G3,T)の中で、どれが卵径および孕卵数変異を規定しているのかを明らかにするため、従属変数を卵径および孕卵数、独立変数をBL0,G1,G2,G3,Tとし、ステップワイズ重回帰分析を行った。その結果、卵径の説明変数としてG1とG2が、孕卵数の説明変数としてTが選ばれた。次に、ステップワイズ重回帰分析で選ばれた説明変数と卵径および孕卵数の因果関係を明らかにするため、パス解析を行った。その結果、G1は卵径に対して44%の負の効果を、G2は卵径に対して24%の正の効果をもたらしていた。Tは孕卵数に対して31%の正の効果をもたらしていた。
[考察]
本研究においても、卵サイズおよび孕卵数は体サイズと強い正の相関があった。体サイズを5つの要素に分解した結果、卵サイズ変異は2つの成長率、孕卵数変異は年齢に起因していることが明らかとなった。年齢は体サイズの規準と考えられるため、孕卵数変異は単に体サイズの違いに起因することが示唆された。一方、卵サイズ変異は体サイズに起因するものではなく、過去の成長率の違いに起因することが示唆された。特に初期成長率G1がもっとも強く卵サイズに影響を与えていた。Sibly & Calow (1983)は、稚魚期の餌環境が悪い所では大きい卵を、餌環境が良いところでは小さい卵をもつことが、親の適応度を最大にすることを理論的に予測している。よって、本研究で見られた卵サイズに対する初期成長率G1の負の効果は、適応的な表現型可塑性として考えられた。これまで多くの研究者は、盲目的に体サイズを卵サイズ変異の主たる要因として扱ってきた。しかし、魚類全般で見ると、卵サイズと体サイズの相関関係は必ずしも正ではなく、負の相関や無相関である場合も報告されている(Iguchi & Yamaguchi 1996; Katayama et al. 1996など)。本研究のように体サイズと成長履歴の因果関係を考慮した上で、卵サイズおよび孕卵数を規定する要因について調べることが有効であると考えられた。