卵サイズの多様性
(平成14年度日本水産学会春季大会講演要旨集, p.296)

1. はじめに

二万二千種以上にも及ぶ魚類の98%は卵を生んで体外受精を行う。魚類の卵は大小さまざまで、報告されているだけでも直径0.3mm〜18mmと変異に富む。卵サイズの多様性は、古くから生態学者の興味の対象となり、その適応的意味が議論されてきた。また、卵の大小は仔魚の生き残りに強く影響することから、水産学者にとっても重要な研究課題となってきた。ここでは、魚類の卵サイズ変異が生じる要因とその重要性について総括する。

2. 卵サイズ変異の源

卵サイズ変異の要因として古くから研究されているのは産卵時期である。概して、夏場に生まれる卵は小さく、冬場に生まれる卵は大きい。この傾向は種間や個体群間だけでなく、個体群内や個体内においても見られる。すなわち、産卵期が春から夏の場合は産卵期間中に卵が小さくなるのに対し、産卵期が秋から冬の場合は産卵期間中に卵が大きくなる。また、生産力が低い淡水域や深海域では卵が大きい傾向にある。以上のことから、餌が少なく天敵も少ないような環境(低水温期・淡水域・深海域)では大きな卵を生み、逆に餌が多く天敵も多い環境(高水温期・沿岸域)では小さな卵を生むというパターンが見られる。
 個体群内では、大きな雌ほど大きな卵を生む例が多くの魚種で報告されている。体サイズと卵サイズの正の相関を説明するため、進化生態学者は様々な理論を提示してきたが、必ずしも統一見解は得られていない。体サイズと卵サイズの正の相関は、概して子の保護を行う種において見られるが、子の保護を行わない種においてもしばしば見られる。また、体サイズと卵サイズに負の相関がある魚種も少なからず存在する。

3. 大卵のメリット・デメリット

一般的に、卵サイズが大きいほど子供の適応度は高くなると考えられている。大きな卵から生れる仔魚は体サイズが大きいため、飢餓耐性に強く、生存率も高いことが多くの魚種で報告されている。また、なわばりを持つ魚種では、孵化時の体サイズが順位形成において有利に働くため、その後の成長も良いという。反対に、大きい卵は体積あたりの表面積が小さいため、溶存酸素量に限りがある水中では、大きい卵ほど孵化までの生存率が低いという報告がある。また、大きい卵ほど仔魚の奇形率が高いという報告もある。さらに、母親にとっては、限られた繁殖投資量の中で大きい卵を生めば、その分だけ産卵数を減じなければならないというデメリットが生じる。

4. 漁業と卵サイズ

漁業は大型個体を選択的に捕獲するため、卵が大きく再生産能力の優れている大型個体の割合を減少させる。その結果、同じ産卵親魚量を確保したとしても、大型個体の割合が少ないと再生産能力は低くなる。よって、産卵親魚の体長組成を考慮しない場合、加入量を過大評価する可能性がある。大西洋マダラでは、親魚の体長組成を考慮せずに従来の方法で加入量を予測した場合、最大で70%も過大評価することが示されている。さらに、一般的に不明瞭でありがちな再生産関係も、体長組成を考慮することで明瞭になると報告されている。この他、小卵多産型の魚種ほど加入量の変動が大きいことや、高い漁獲圧を受けると卵サイズが小さくなり産卵数が増加するという報告がある。後者の卵サイズの小型化は、@漁獲による高い死亡とA資源量減少に起因する競争緩和によってもたらされた良好な摂餌条件の2つに適応した帰結と考えられる。