通し回遊を行なうイワナの生活史の解明
イワナは幻の魚と思われている人も多いと思いますが、北海道ではとてもみじかな川魚です(むしろ雑魚)。これまで、標識放流調査を中心にして、北海道の川に生息するイワナの生活史を調べてきました。北海道には、本州で姿を消しつつある海へ回遊するイワナ(写真)が沢山生息しています。私は、海と川の回遊の進化を語る上で、北海道のイワナは優れた研究対象であると考えています。なぜなら、北海道のイワナには、海へ下る降海型と生涯を川だけで過ごす残留型の両方が雌雄ともに存在するからです。以下に、最近の研究で明らかになった北海道のイワナの生活史を紹介します。
「北海道におけるイワナの生活史」
- 北海道の渓流でよく見かける魚といえば,やはりイワナ(アメマス)である.本州北部から北海道に生息するものや海へ下るものを特に区別してアメマスと呼ぶ人もいるが,基本的には本州にすむイワナと同種である.本州ではほとんどの個体が残留型であり海へ下る降海型は非常にまれであるが,北海道では降海型と残留型の両方がふつうに見られる.ここでは,北海道南部のある小河川で3年間実施した標識再捕調査の結果を中心に,本種の生活史の全体像を紹介する.
- まず,降海型の生活史について説明する.例年雪解けの4から5月ごろ,体長16-20cmに達した2-4才魚のなかに“銀毛(スモルト)”と呼ばれる変態をして海へ下るものが出てくる.銀毛する魚は3才が中心で,雌の方が多い.海へ下った銀毛個体は海洋で一気に成長し,その年の夏6から9月には体長26-29cmにまで成長して川に戻る.繁殖期は10から11月ごろで,その後も死亡することなく再び海へ下り,成長し続ける.しかし、サケのように産卵後にホッチャレとなるアメマスもいる。2回目以降の海へ下る時期は,繁殖直後の11月から春先の4月までと個体差が大きい.3年連続して川に上り多回繁殖する降海型も確認されており,降海2年目になると体長31-34cm,降海3年目になると体長35-38cmに成長する.ちなみに,これまでに私が見た最大の降海型は80cmの9才魚である.
- 国後島を流れる東沸川では,駆除の目的からアメマスの移動性に関する大規模な調査が行われたことがある(柴田1938,鮭鱒彙報
38: 78-83).銀毛の降海時期は4月下旬から6月上旬、親魚の遡上時期は8月から11月であるという(図表).また,降海魚(銀毛)は雌が多いのに対し,遡上魚(親魚)は雄が多いという(図表).サクラマスで報告されているのと同様に,雌はハイリスクハイリターンの戦略を採っているのかも知れない(Tamate
& Maekawa 2004, Ecol. Freshw. Fish 13: 96-103).
- 次に,残留型の生活史.残留型は成長の個体差が非常に大きく,10月の体長では1才で10-17cm,2才で12-21cm,3才で15-25cm,4才で17-26cm,5才で18-27cmである.残留型は1-4才で成熟するものが現れ,降海型と同じく3年連続で多回繁殖するものもいる.降海型とは逆に,残留型は大部分が雄である.成熟体長は雌雄や年令で異なり,雄の場合は,1才で15cm,2才で13.5cm,3才で12cm,雌の場合は,1才で17cm,2才で16cm,3才で14.5cmぐらいに達した魚から成熟する.すなわち,高齢であるほど,また,雄ほど成熟を開始する体長が小さくなる.
- さて,あるイワナが降海型になるか,それとも残留型になるかは,どのようにして決まるのだろうか.これには,先天的な遺伝要因と後天的な環境要因(特に幼魚期の成長の良し悪し)の両方が関与すると考えられている.しかし,砂防ダムの建設直後に降海型になる個体が減少することから,個体群内のスケールでは環境要因が大きなウエイトを占めていると考えられている(イワナの生活史を変えた砂防ダム).
→降海型のオショロコマについて
北海道におけるイワナの生活史

