カラフトマスの資源変動の要因

生活史: 日本のカラフトマスは、主に北海道のオホーツク海と根室海峡に流入する河川に遡上する。分布南限は、日本海側では石川県、太平洋側では福島県。主な産卵期は8〜10月で、雌が河床の砂礫に穴を掘って産卵し雄が放精したのち雌が再び埋没する。サケと比べると、流速が早い浅瀬で産卵する。翌年の4〜6月に体長3p強の稚魚が砂礫中から浮上し、河川ではあまり餌を捕食せず直ちに海へ下る。産卵床の掘り返しによる卵の流出が大きな死亡要因で、密度依存的に死亡率が高まるといわれる。降海したカラフトマスはオホーツク海を経て北西太平洋に回遊する。カラフトマスはほとんど全てが満2年で成熟する(注:まれに1年、3年、4年で成熟する個体も知られる)。そのため、偶数年と奇数年で繁殖集団が分かれており、隔年の変動を示すことがある。遺伝分析によると、同じ河川で産卵する偶数年と奇数年のカラフトマスよりも、同じ年に産卵する日本とアラスカのカラフトマスの方が近縁である。また、他のさけます類と比較すると、母川回帰性が低く、河川間の遺伝的分化は大きくない。北米やロシアでは標識放流によって迷入率が調べられており、概ね5〜10%と推定されている(注:ふ化放流された個体は迷入率が高いといわれる)。ただし、他のさけます類と同様に、河川ごとへの適応(体長など)があると考えられている。北海道では、7〜10月になると産卵のため沿岸域に近づき漁獲対象となる。遡上親魚の多くは人工ふ化放流のために捕獲されるが、自然産卵も多い(と私は考える)
資源変動とその要因: 北海道におけるカラフトマスの沿岸漁獲量は1990年代に入って著しく増加した(上図)。時期を同じくしてふ化放流事業が発展してきたため、ふ化放流事業によってカラフトマスが増加したという指摘がある(Hiroi 1998; Kaeriyama 1999)。しかし、放流数が安定した1990年以降に偶数年と奇数年で豊漁不漁がみられ、放流数のみで資源変動を説明するのは難しい状況になっている。そこで、1969から2003年の漁獲量データを用いて、自然産卵と気候変動がカラフトマスの資源変動に及ぼす影響について調べた。その結果、親魚数が多いほど、卵期が暖冬であるほど、産卵期の降水量が多いほど、2年後のカラフトマスの回帰数が多くなることが示唆された。このような環境要因とカラフトマスの資源変動の相関関係は、北米やロシアでは古くから指摘されている。カラフトマスの卵期の主要な死亡要因として河川の凍結が指摘されており、暖冬は卵の生存率を高めると考えられている。また、カラフトマスの産卵期における降水量が多いほど、河川遡上や自然産卵を助長すると考えらている。
  ところで、北海道に近い国後島にはふ化場がない。しかし、国後島でもカラフトマスは増加しており、変動パターンは北海道と同調している(下図)。国後島にはそれほど大きな川がないにも係わらず、ふ化放流をしなくても北海道のおよそ五分の一の漁獲量が得られているという事実は興味深い(流域面積は北海道のカラフトマス遡上域である道東域の十分の一に満たない)。国後島では自然産卵数や稚魚の降下数がモニタリングされており、沿岸漁獲率は約60%、回帰率は約3.5%と推定されている(注:北米やロシアではこのようなモニタリングは普通に行われている)。また、1988/89年はレジームシフトが起こった年といわれ、複数の魚種で一定の変化が見られている。例えば、オホーツク海のスケトウダラの漁獲量は、カラフトマスと反比例するように減少した(下図)。以上のことから、日本におけるカラフトマス資源の増大は、気候変動に起因する部分が大きいのかも知れない。今後は、自然産卵も考慮に入れた管理方策(産卵場のリハビリテーションなど)が期待される。


参考文献:
森田ほか (2004-2006, 2012) カラフトマス 「平成15-17, 23年度国際漁業資源の現況」(水産庁・水産総合研究センター発行).平成15年度版平成16年度版平成17年度版平成23年度版、 国際漁業資源の現況→http://kokushi.job.affrc.go.jp/index-2.html
Morita et al. (2006) Population dynamics of Japanese pink salmon (Oncorhynchus gorbuscha). Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 63: 55-62.

北海道の水質環境について